コラム インタビュー

Massachusetts総合病院 Dr.Bruce Morganを訪ねて

Intervierwer:小山太郎(F.M.L.評議員 医学博士)


2010年9月22日、米国マサチューセッツ州ボストンに毛髪の基礎研究の大家、Bruce Morgan博士(Massachusetts General Hospital, Harvard Medical School)(写真1)を訪問した。博士は特にhair cycleのregulationについての研究で多くの業績を残しており、現在も活発な研究活動を続けている。「毛が生え、抜け、そしてまた生えてくる」、この当たり前のような現象の完全なる解明は、男性型脱毛症を含め脱毛症疾患の治療に携わる臨床家の強く望むことであり、脱毛症に悩む人々に恩恵をもたらすものである。

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(写真1)



1.Morgan博士の研究室 ↓
2.Wnt signalingとhair cycle ↓
3.Morgan博士の毛髪研究の今、そしてこれから ↓


1.Morgan博士の研究室

Morgan博士はボストン(米国)のMassachusetts General Hospital (MGH) Eastに研究室を構えている。MGHはHarvard Medical Schoolの関連病院のひとつである。筆者はBrigham and Women’s Hospital (Harvard medical Schoolの関連病院)で研究を行っていた2007年~2009年に、MGHの本院には頻繁に出入りしていたが、今回訪問したMGH Eastは本院から川を越えた先にあり、今回が初訪問となった。Morgan博士の研究室はMGH Eastのワンフロア、Cutaneous Biology Research Center(CBRC)内にある。CBRCは皮膚の基礎研究を目的に1989年、資生堂の出資で開設された研究施設である(写真2)。Morgan博士のもとで、現在3人のポスドクと2人の技術員が研究に従事しているそうである。

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(写真2)

Morgan博士の研究テーマは毛髪、特にhair cycleのregulationシステムの解明である。Hair cycleの異常が脱毛症を引き起こすことは周知のとおりである。Hair cycleに影響を及ぼすものは各種成長因子(EGF, TGF-beta, VEGF etc)やホルモン(甲状腺ホルモン, dihydrotestosterone etc)など多くが知られているが、毛乳頭内でhair cycleのregulationに特に強く関与しているのがWnt signalingである。男性型脱毛症においても、androgenが毛乳頭でのdickkopf-1の発現を強めWnt signalingに異常をきたすことが発症機序の一つとして報告されている。*1  このWnt signalingにいち早く注目し研究を続けてきたのがMorgan博士である。

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2.Wnt signalingとhair cycle

Wnt signalingは胚発生と癌の研究で発見されたタンパク質のネットワークである。ショウジョウバエを用いた胚発生の研究で発見されたWingless遺伝子と、癌研究で発見された脊椎動物のINT遺伝子、両者が相同遺伝子であることがわかり、後にWntと命名された。Morgan博士は鳥の羽(feather)の発生にWnt signalingが関わっているという自身の研究結果を毛髪(hair)の研究に持ち込み、hair cycleにおいてWnt signalingが重要な役割を果たしていることを発表している。*2,3

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3.Morgan博士の毛髪研究の今、そしてこれから

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Morgan博士は現在、hair cycleのregulationシステムの更なる解明に取り組んでいる。Wnt signalingでは安定化されたbeta-cateninが核内へ入り、他の転写因子との相互作用により特異的な遺伝子発現が促進されるが、Morgan博士はbeta-cateninが毛乳頭でのFGFやIGFの発現を促進すること、これにより毛乳頭と毛髪、双方のregulationに関与していることを報告している。*4 また新しい研究として、皮膚付属器である汗腺の研究を進めているそうである。汗腺の多いネズミでは毛が少なく、毛の多いネズミでは汗腺が少ないという傾向があるそうで(Morgan博士の私見とのこと)、汗腺の研究が進めば将来、汗腺と毛髪との間に何らかの関係が報告されることもあるかもしれない。

Morgan博士(左)と小山太郎先生(右)

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【Reference】

*1  Kwack MH, Sung YK, Chung EJ et al. Dihydrotestosterone-inducible dickkopf 1 from balding dermal papilla cells causes apoptosis in follicular keratinocytes. J Invest Dermatol 2008; 128: 262-9.

*2  Kishimoto J, Burgeson RE, Morgan BA. Wnt signaling maintains the hair-inducing activity of the dermal papilla. Genes Dev 2000; 14: 1181-5.

*3 Noramly S, Freeman A, Morgan BA. beta-catenin signaling can initiate feather bud development. Development 1999; 126: 3509-21.

*4 Enshell-Seijffers D, Lindon C, Kashiwagi M et al. beta-catenin activity in the dermal papilla regulates morphogenesis and regeneration of hair. Dev Cell; 18: 633-42.


【関連ページはこちらから】
>Reference *2 ジャーナル:Wntシグナルは毛乳頭の毛髪誘導活性を維持する。
>Reference *4 ジャーナル:毛乳頭中 のbeta-cateninは毛髪の形態形成や再生を制御している。


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