コラム

精神科医の考える頭髪治療

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わが国で、薄毛を気にしている男性は800万人、育毛剤などの対処を継続中の男性は500万人いるといわれています。薄毛の原因は様々ですが、特に多いのは男性ホルモンが原因で起こる男性型脱毛症(AGA)です。主な症状は、前頭部の生え際の後退と頭頂部のボリューム低下に伴う地肌の露呈です。

では、AGAとは果たして疾患なのでしょうか?絶対的に治療が必要なものなのでしょうか?この問いに関しては様々なご意見もあろうかと思います。AGA治療薬であるフィナステリドが保険適用外の薬剤とされている現状をみると、わが国におけるAGAの立ち位置といったものが多少は見えてくるのかもしれません。

さて、筆者は薄毛に悩む患者さんに対して約10年間にわたり診療を行って参りました。頭髪治療といえば皮膚科医の領域と思われる方も多いかもしれませんが、私の場合は精神科医という立場から患者さんと接して参りました。

臨床の現場では、第三者には外見上全く問題ないように見えても、そこへ至るまでの経過や、今後の予後に対しての不安感を強く訴えて来院するケースが多く存在します。そしてこの様なケースでは、日々のヘアケアにかなりの強迫症状を呈するものや、身体醜形障害と診断がつくようなものなど、頭髪治療よりも精神科領域の治療を優先せざるを得ない症例が少なくありません。
患者さんと接していて気付くのは、自分の年齢に対して髪が薄いと思うか思わないかは、他人が決めることではなく自分自身が決めることであり、最終的には「本人の主観が全てなのである」ということです。

Hamiruton_1_7 AGAの代表的な進行度分類にHamilton-Norwood分類というものがあります(図1)。万人の進行がこの流れに従うものではありませんが、では、この分類におけるⅡ型の人は全てⅠ型になりたいと思うのでしょうか?果たしてどのステージからを薄毛として悩みだすのでしょうか?10年間頭髪に悩む方々を診療してきてもその答えは出ていませんし、これから先もきっと出ないだろうと思います。そこで当院では可能な限り同じ条件(髪型、髪の色、撮影角度、撮影機材など)で毎月の来院時に写真撮影を行っています。頭髪治療における数少ない客観的な効果判定として、写真判定は不可欠であるように思います。
そしてこの治療はもう一つ、「始める時よりもやめる時に勇気がいる」という特徴を持っているようです。前述のように、治療効果の判定をするのは主治医ではなく本人であり、そのゴールもまた、主治医が決めるのではなく本人の主観により決定される場合がほとんどです。治療は、こういった頭髪治療独自の特性について説明し、納得を得た上で開始すべきでしょう。


医療の発展は日進月歩でありますが、残念ながらAGAに関しては現在のところ氷山の一角が現れた程度といわざるを得ません。そこに過度な期待を持たれての受診や、治療の必要性をあまり感じさせないレベルの受診など、頭髪の医療は決して一筋縄ではいかないことを筆者はこの10年で随分と経験して参りました。現在のところ健康保険が利かないAGAの治療は、混合診療の問題、効果発現における個人差の問題、精神症状の合併の問題など、保険診療の片手間で行うにはかなり困難を強いられます。

頭髪医療に携わる医師は、我が国のAGAにおける臨床の実状や様々な問題点を深く理解した上で治療にあたる必要があるのではないでしょうか。誤解を恐れずにいえば、ジャンボ宝くじを次から次へとただひたすら売っていくような診療をするのか、しっかりと腰を据えて髪の先から心の中まで対応する診療をするか、我が国におけるAGAの治療の現状は二者択一になっているといえるのかもしれません。

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