学会・論文

第4章 第14回毛髪科学研究会  2005年11月

表題:
Relationship between the change in hormone/cytokine level afer finasteride treatment and The length of triplet region in androgen receptor gene.
アンドロゲン受容体の3塩基リピート配列長、及び血清中男性ホルモン値の測定によるアンドロゲン依存性脱毛症患者のフィナステリド有効性評価

発表日: 2005年11月

場所: 東京(日本)

講演者: 波間隆則

2005年11月に東京で第14回毛髪科学研究会が開催されました。当該学会でF.M.L.事務局長(当時)の波間隆則さんが「アンドロゲンレセプターの3塩基リピート配列長およびジヒドロテストステロン量の変化とフィナステリドの有効性」について発表されました。今回はその発表内容について詳しくお話を伺いました。


アンドロゲンレセプター遺伝子の繰り返しの長さ、及びジヒドロテストステロン量の変化とフィナステリドの有効性

Interviewer
遺伝子と脱毛症の関係性を調べることを提案したのは波間さんだという話を伺いました。

波間さん
そうですね。「遺伝子診断」といって、患者さんの遺伝子を調べてどんな病気にかかりやすいか、どんな治療が適しているかを診断する事が、当時色々な分野で重要視され始めていました。そこで我々のグループでも脱毛症と遺伝子の関係を研究してみてはどうかと考え、提案させて頂きました。

Interviewer
F.M.L.に所属されている方は皆さん、研究や治療だけでなく、何でも最先端のことに挑戦したいという方が多い様ですね。では、今回の学会についてお聞かせ下さい。

波間さん
今回の学会は東京で開かれたのですが、アメリカのR.M.ホフマン先生を始めカナダのJ.シャピロ教授、韓国のリー・ウオンソー教授、ボング・チュルチェン教授など、毛髪科学の世界的権威と言われる先生方が講演をされました。
私自身は、「アンドロゲンレセプター(AR)遺伝子のトリプレット領域の長さとフィナステリド治療後のホルモン/サイトカインの変化の関係」というテーマで発表をしました。前回の学会でFML所属の小林一広先生が発表された、「AR遺伝子中央の繰り返し塩基配列が短い人は男性型脱毛症になりやすいけれど、フィナステリドが良く効く」という事実に(第2章参照)、ホルモンとサイトカインという概念を加えてアプローチをしました。

Gakkai04_01 図1. Improvement of patients with finasteride.

 

Interviewer
今回新たに登場したホルモンとサイトカインについて、詳しく説明して頂けますでしょうか。

波間さん
はい。男性型脱毛症の原因に関係するホルモンとして、ジヒドロテストステロン(DHT)があります。これは男性ホルモンの一種で、テストステロン(TS)というホルモンが5α -レダクターゼという酵素により分解されることで生成します。DHTはTSよりもはるかに強い男性ホルモン作用を有し、頭髪の毛根で生成されて男性型脱毛症を引き起こします。したがってDHTの生成を抑制してやれば、男性型脱毛症の進行を抑えることができるということなのです。
また身体を構成する細胞同士の情報伝達物質をサイトカインといい、細胞の増殖に関わるサイトカインとしてIGF-1やTGF-β1等があります。DHT等の働きにより毛乳頭細胞の増殖が抑制されている場合、細胞の増殖に関わるサイトカインの生成量も減少する傾向があります。
そこで我々は「脱毛症治療薬の投与により血中DHTやTS、 IGF-1やTGF-β1の量に変化があれば、治療薬の効果が出ているといえる」という仮説を立て、フィナステリドによる治療を行っている患者さんの血液中に存在するこれらホルモンやサイトカインの量を測定することにしました。

Interviewer
患者さんの血液を採取しDHTやTSといったホルモン、IGF-1やTGF-β1といったサイトカインの量を測定することでも、脱毛症治療薬の効き具合を推測できるということですね。

波間さん
その通りです。さらに今回は、フィナステリドによる治療を一定期間行った患者さんを、AR遺伝子中央の繰り返し塩基配列が短い人と長い人のグループに分け、各グループごとに治療前後の血中TS、DHT、IGF-1、及びTGF-β1量を測定し、その変化率を算出ました。
その結果、繰り返し塩基配列が短い人ではフィナステリドの投与によりDHTが大幅に減少していました。一方、繰り返し塩基配列が長い人ではそれほど顕著な変化は認められませんでした。
これまでに臨床の統計から「AR遺伝子中央の繰り返し塩基配列が短い人はフィナステリドが良く効く」ということは分かっていましたが、今回の研究で「フィナステリドが効いている患者さんでは実際に血中のホルモンやサイトカインの量に変化が起きている」ということが科学的にも証明されました。

Gakkai04_02 図2. Change in Free TS and DHT levels 2 month after treatment.

Interviewer
遺伝子診断の信憑性が増したといえそうですね。

波間さん
今回の学会では、日本を代表する男性型脱毛症の専門家からも高い評価をいただきました。
私の講演が終わった時に、日本の毛髪科学研究会の会長の任にあった荒瀬誠治先生(徳島大学教授)が立ち上がって「F.M.L.グループは前年の国際学会で受賞されたが、今回さらにインパクトの高い発表をされた」という趣旨の発言がありました。

Interviewer
素晴らしいですね。F.M.L.グループの研究レベルはいよいよ上がって、国際的にもよく知られるようになったんですね。今後のさらなるご活躍を期待いたします。本日はありがとうございました。


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