学会・論文

第6章 15th European hair research society(第15回ヨーロッパ毛髪研究学会) 2011年7月

Israel01 表題
Clinical experience of androgenetic alopecia in 11 pairs of identical twin males.
(一卵性双生児の男性型脱毛症(AGA)患者11組の治療経験)

発表日: 2011年7月

場所: イスラエル(エルサレム)

講演者: 小山 太郎

2011年7月にイスラエルのエルサレムで15th European hair research society(第15回ヨーロッパ毛髪研究学会)が開催されました。本学会で小山太郎先生は「一卵性双生児のAGA患者11組の治療経験」について研究報告を行い、学会賞を受賞されました。そこで、本日は小山太郎先生に詳しい研究の内容についてお話をお伺いしました。


薄毛は生活環境に影響をうけるのか?
~同一の遺伝子を持つ一卵性双生児の症例比較からわかること~

Israel02 Interviewer
学会発表お疲れ様です。そして、学会賞の受賞おめでとうございます!

小山先生
有難うございます。今回の賞は、私一人が受賞したものではなく、F.M.L.に携わる全てのドクターやスタッフ、そして患者様のご協力あってのものです。本当に多くの方に感謝をしています。

Interviewer
では、今回受賞された研究について詳しくお話を聞かせてください。今回の学会はイスラエルで開催されたそうですね。

小山先生
はい。今回の学会は、イスラエルの中でも、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の3大宗教の聖地があるエルサレムという場所で開催されました。非常に歴史の長い都市で、古くからの変わらない街並みと、近代的な建物の両方に同時に出会うことのできる、大変魅力的な街でした。
学会には、30カ国以上の国から約400名もの参加者が集まり、基礎研究から臨床研究まで、頭髪に関する幅広い研究報告が行われました。

Israel03 Interviewer
今回、「一卵性双生児のAGA患者11組の治療経験」というテーマで発表をされたそうですが、これはどのような研究なのでしょう?

小山先生
一卵性双生児というのは、同一の遺伝子を持つ双子のことです。このような双子同士を比較することで、様々なことが推察できます。
例えば、一卵性双生児の一人(A)が100 kgの体重があり、もう一人(B)が60 kgの体重であったとします。もしAの肥満が遺伝によるものだとすると、同じ遺伝子をもつBも肥満であるはずです。しかし、Bは平均的な体重ですので、Aの肥満は遺伝によるものではなく、単なる食べ過ぎや運動不足が原因である可能性が高いといえます。
この様に、一つの事象について、遺伝や環境が影響しているかを考えるときに、一卵性双生児の比較という手法がよく用いられます。
今回我々は、AGAを発症している11組の一卵性双生児の患者様にご協力頂き、初診時のAGA進行度と、治療1年後の改善度について比較検討しました。

Interviewer
なるほど。AGAに、煙草などの生活習慣や遺伝が関係しているかどうかは、非常に興味深いテーマですね。早速ですが、どのような結果が得られたのかお聞かせ下さい。

小山先生
今回検討した11組のうち、6組では初診時の毛量に明らかな差は認められませんでした。一方、残りの5組では初診時の毛量に差が認められ、さらにそのうちの4組では治療一年後の毛量にも差が認められました。この結果から、AGAの進行や治療効果には、遺伝以外の因子、即ち環境因子が関与している可能性が示唆されました。
また、環境因子の影響については、これまでに同じアジア人で喫煙率やメタボリックシンドローム(特にHDLコレステロール値)とAGAの関連性が報告されています※1,2。そこで我々も、喫煙歴や飲酒歴などいくつかの環境因子についてAGAとの関連性を検討しました。しかし、今回は情報量が不十分であり関連性を示すには至りませんでした。
AGAと環境因子の関連性を示すにはさらに症例数を集めて検討する必要がありそうです。

Israel04 Interviewer
さらに研究が進み、AGAの進行や治療効果に影響を与える生活習慣が特定されれば、日ごろのちょっとした行いでAGAを予防できるようになるかもしれませんね。

小山先生
そうですね。AGAと環境要因や遺伝要因のかかわりについては、既に複数の研究がなされています。400組以上の一卵性双生児と二卵性双生児を集めたAGAと遺伝についての研究報告もあるのです。※3この研究結果からも、AGAに遺伝の影響が大きいことは疑いようがありません。一方で環境要因がAGAにどの程度、影響を及ぼしうるかについては検証が不十分で、追及の余地があると感じています。また、近年、環境要因、ストレスに、遺伝子が影響を受けること、つまり、塩基配列は同じでも、遺伝子発現に変化が生じうることなどがわかっており(エピジェネティックス)、こういったことも念頭に置いて、日本人のAGAに影響を与える環境因子についての大規模な疫学調査を行い、AGA進行予防の一助としたいと考えています。

Interviewer
調査の結果が非常に楽しみです。本日は有難うございました。

【参照】
※1 Su LH, Chen TH. Association of androgenetic alopecia with smoking and its prevalence among Asian men: a community-based survey.Arch Dermatol. 2007 Nov;143(11):1401-6.
※2 Su LH, Chen TH. Association of androgenetic alopecia with metabolic syndrome in men: a community-based survey. Br J Dermatol. 2010 Aug;163(2):371-7. Epub 2010 Apr 23.
※3 Nyholt, D. R., et al.Genetic basis of male pattern baldness. Journal of Investigative Dermatology. 2003


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